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その他

カビと病気

最近の医学的なニュースで面白いなと思った記事を紹介したいと思う。東京科学大学(旧東京医科歯科大学)の絹笠祐介教授らのグループが 「膵臓がん内に含まれる真菌マラセチア・グロボーサの量が膵臓がんの予後と関係があることを世界で初めて発見 」したというものだ。マラセチア・グロボーサは14種類あるマラセチア(癜風菌)という真菌(カビ)の1種。常在真菌で、通常は脂漏性皮膚炎や癜風、マラセチア毛包炎などの原因となる。近年の研究で、膵臓がんの発癌を促進する可能性が示唆されているhttps://www.tmd.ac.jp/press-release/20230905-1/

カビはつまり真菌であるが、ポピュラーな表現だと”水虫”である。水虫は周りの人でもたくさんいると思うが、思いもよらないところで人間に害を与えているのではないかと自分も常々思っていた。今回の記事ではカビとがんに関係しているものであるが、他にもアルツハイマー病との関係も報告されているhttps://www.nature.com/articles/srep15015。リンクの論文はスペインのグループが2015年のScientific reportsに投稿された物であるが、2024年10月までに266回引用されており、それなりにインパクトのある内容と思われる。この報告によると、アルツハイマー病患者の前頭葉皮質、小脳半球、嗅脳、海馬、脈絡叢で真菌の構成成分が免疫染色で脳細胞内・外で検出されているというものだ。海外のサイトhttps://www.medicalnewstoday.com/articles/how-a-candida-infection-could-trigger-mechanisms-tied-to-alzheimersではカンジダという真菌がアルツハイマー病のトリガーになっているかもしれないといった記事も掲載されている。

普段、患者さんを診療していると足に水虫ができている人が結構多く、爪が水虫で肥厚している人をしばしば見かける。特に自分で清潔を保てなくなっている比較的認知機能が下がっている人に多いように思う。以前は認知機能が下がって、自分のことに無頓着になって水虫になるのかなと考えていたが、上記のような記事を見ていると水虫が先に起こって認知症になっているのではないか?というような疑問がよぎるようになった。結果はわからないが。

あと、問題は水虫の治療が意外と難しいことにもある。皆さんご存知のようにカビは非常に頑固で落としにくい。風呂場や水回りでゴムやなんかにカビが生えると漂白剤なんかを使わないとなかなか落ちない。人間の体も同じで、感染した角質、爪や毛髪は生え変わらないと水虫は治らないが、夏場で高温多湿になると水虫の増殖スピードが早いため薬による増殖抑制あるいは殺菌効果よりも増殖が上回り治らない。さらに、治療する場合は皮膚科を受診して、皮膚や爪を削って顕微鏡で確認してから投薬するのが一般的だが、菌が検出されずに診断されないことが結構あるように思う。以前に自分がアメリカに行っていた時に柔道をしていて水虫になったという記事を書いたが、数箇所皮膚科を受診したがいずれも菌は検出されなかった。なまじ市販薬で治療していたせいか皮膚にあまり菌がいなかったのかもしれない。また、柔道、レスリングで、流行していたトンズランスという真菌は毛根に入り込む性質があるため頭髪や体毛に感染して毛嚢炎を起こすことがある。また、トンズランスに限らず、毛嚢炎を起こすと禿瘡といって脱毛の原因となり得るので、髪の毛が薄い、まだら状に脱毛する、あるいは縮れるように髪質が変化した場合なんかも真菌感染を疑うべきかと思う。毛嚢炎の場合、ブラシで髪の毛を擦って培養検査する方法があるが、あまり一般的に行われていないようだ。トンズランスを認識している皮膚科医であれば検査するだろうが、一般の開業医での認識はまだまだ低いように思う。

真菌による毛嚢炎の場合どちらかというとマラセチアという真菌が教科書的には一般的で、よく背中や二の腕にニキビのようなブツブツができることがあるがあれがそうだ。塗り薬だと毛根まで薬が届きにくいため治ってもすぐに再発するが、内服薬まで出して治そうとする医者を自分の周りでは見たことがない。なぜなら、マラセチアは常在菌という認識でどこにでもいて、免疫力が低下すると感染するという認識だからだ。一方で、マラセチアで膵臓癌になるという報告もあるし、毛嚢炎でも別の菌種の真菌感染が起こっている可能性もあるので、ひどい場合は内服薬で治療しても良いのでは?とも思っている。また、夏場にアトピーの人が顔や体の皮膚が赤くなって、古い角質で粉をふいている状態の人をたまに見かけるが、皮膚で炎症が起こるとバリアが壊れて真菌の侵入を許しやすくなる。また、ステロイドを使用していることが多いので、真菌感染を合併しているのではないかとも思う。自分は皮膚科医ではないのであしからず。

真菌の治療は抗真菌薬の外用か内服だが、抗真菌薬は真菌の細胞膜にあるエルゴステロールに結合して細胞膜を破壊したり、合成を阻害したり、あるいは細胞壁を壊すタイプのものもある。抗真菌薬は細胞膜、細胞壁の真菌にだけに存在する成分をターゲットにしているが、真菌は真核細胞で動物の細胞とよく似ているため薬のターゲットにできる物質が少ない。そのため、治療が難しいのである。また、真菌は不顕性感染と言って症状を出さないこともある。痒みもなく、皮膚の深いところに侵入して、暑くなったり湿度が上昇すると症状を出す。

今回記事にしようと思ったのは、「たかが水虫、されど水虫」と思ったためである。日本人の6人に1人は罹患していると言われている。いわゆる足の水虫以外にも毛嚢炎、抜け毛やひどい場合はがんの原因にもなり得るので注意して頂きたい。

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Girimaro
40代脳外科専門医、救急科専門医、アメリカ留学経験あり 日々考えていることを記録します https://blog.with2.net/link/?id=2073035

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