医学生は大学を卒業すると、医師国家試験を受験する。合格すると保険医という資格を取得して保険診療が可能となる。その後、初期研修を2年間終了したのちに、自分の志望する診療科に特化する事になる。脳神経外科を選ぶ医者は自分のところでは大体毎年平均2名だ。入局(初期研修後に診療科を選択して、大学病院のグループに属すること)者は多い大学で10人程度、地方だと0名のところも多い。学生や初期研修医師が脳外科をローテーションしてくる機会は限られている。特に、初期研修では脳外科は必修でないため、新人のリクルートは大変だ。若い人の話を聞いていると、内科志望が多いように思う。外科系は敬遠されている様に思う。
初期研修先の病院を選ぶポイントとして大事なことは、自分が将来いきたい診療科がその病院にあり、充実していることだと思う。また、できれば気管内挿管や中心静脈確保、動脈ルート確保などの基本的救急診療を身につけられるところが良いと思う。自分は初期研修で脳外科を半年くらい選択したが、結果的には長すぎたと思った。研修医に任せられる手技は限られていて、ある一定のところで学べることに限界があったこと、入局後に同期と差がつけられると思ったが、入局後にその差は一瞬でなくなるし、入局後の方が長いのであまり関係なかった。あと、脳外科の場合は多発外傷を診る機会が多いため、放射線科を選んで、頭部以外の読影技術を学べば良かったと思う。造影なしで腹腔内出血を見つけたり、骨折を見つけるのは慣れていないと難しい。また、脳外科は寝たきりの患者さんも多いので、褥瘡、皮膚感染、薬疹など皮膚病変に慣れておく必要がある。ステロイドなのか、抗菌薬なのか判断に迷うことが多く、皮膚科に相談したくても常勤がいない病院も結構ある。行きたい科がほぼ決まっている人は、その診療科に関係しているところを選ぶと良いのではないかと思う。エコーなども研修医の時にしか扱う機会はないのではないか、救急の現場ではエコーはとても重要だ。
入局後であるが、自分は脳外科以外は知らないので脳外科にかぎって説明したいと思う。脳外科専門医は医師になって7年後に受験する。自分のところでは1-2年前から過去問などを解いて準備に取り掛かるのだが、それまでは忙しい病院の当直などにあたっていて、あまり体系的に勉強した記憶がない。自分の担当した症例を中心に虫食い的に足りない知識を補充していく感じだ。土台の部分は国家試験の時に勉強しており、それに枝葉をつけていく。分厚い専門書を通読するのは、現実的ではなく、辞書がわりに使うことが多かった。イメージを掴むには簡単で要点だけまとめた薄い本を通読することをお勧めしておく。
専門医試験までの時期は、独身であったりとある程度時間が取れるので、やる気のあるひとは英会話の勉強することをお勧めする。留学しないにしても、簡単な会話ができた方が、旅行先でレストランを予約する、タクシーで行きたい場所を伝える、ホテルにチェックインする時に便利だ。最近はオンライン英会話もとても安く受講することができる。この際、相手が必ずしもアメリカ人、イギリス人である必要はない。フィリピンは英語が公用語だし、Speakingに関しては相手は誰でも関係ない。自分は留学中は中国人といることが多かったが、Hearingはネイティブのアメリカ人の方が良いが、話すことについては相手は何人であろうが上達に関係ない。たくさん話す方が重要だ。使うフレーズは馬鹿みたいに単純だったが、繰り返し使い、反射的に声に出せるようになることが大切だ。あと専門医試験前にやっておくと良いのはアメリカ医師国家試験(USMLE)である。アメリカで脳外科医になるのはほぼ不可能であるが、この資格を取っておくとClinical fellowになるチャンスがある。高得点は必要なく、Research fellowでアメリカに留学して、その時にコネを作っておいてアプライすればClinical fellowshipに入って給料をもらいながらトレーニングできる機会が得られる。専門医試験前は忙しいかもしれないが、当直中は漫画やテレビを見ずに勉強することをお勧めする。
専門医試験の前後で大学病院に戻ってくることになるが、この頃から脳外科の中でもさらに専門分野に特化していくことになると思う。血管内治療、悪性脳腫瘍、機能外科(てんかん、パーキンソン病)、脊椎・末梢神経外科だ。大学院に進学する人も出始め、基礎研究をやり始める機会も出てくる。大学病院では稀な疾患が集まってくることが多いので、臨床論文を書くにも良い環境である。この頃どれだけ論文を書いたかによって、その後の進路が決まってくる。大学病院でキャリアを形成したい人は、海外留学が望ましいが、渡航費などを捻出するために奨学金を獲得する必要があるが、論文をたくさん書いていないと難しい。また、科研費などの研究費を取ってくるのにも論文などの業績は重要である。臨床が好きで、手術をたくさんしたい人などは、これらの研究は苦痛でしかないが。
大学院を卒業すると、博士(PhD)の資格を得ることができるため履歴書(CV)には良い。留学する場合、希望者は推薦状、CV、(奨学金を獲得した証明も場合により要求される)が必要で、MD(医師免許)かPhDが対象となる。ある程度専門分野の知識が充実していないと、留学したときに会話について行けないし、知識も身につかないので、基本的には博士号を取得した後の方がスムーズかと思う。大学卒業直後にアメリカやその他の国にわたるケースについては別のブログなどをご参考ください。
留学も済んで、博士号、専門医資格を取得すると一通りトレーニングは終了した感じになり、その分野で独り立ちして力を発揮し出す。大体30台後半から40台前半である。この頃に、自分が活躍できる場所があるかないかはその後のキャリアに大きく関わってくる。現在自分の立ち位置はここである。今後の身の振り方についても考えないといけない。
Girimaroさん
私は、再受験で医学部に入学し、卒業時には30歳なのですが、その年齢から脳神経外科に進むことはおススメできますか(脳外科医の間で「一人前」とされるレベルに40代中盤で到達できるのでしょうか。)
また、最終的に到達したい脳神経外科医としてのレベルは、血管内治療(脳梗塞に対するカテーテル治療など)を独力で行えるレベルです。
漠然とした質問かもしれませんが、お答え頂ければ幸いです。何卒宜しくお願い致します。
まつもとさん
ご連絡ありがとうございます。卒業時に30歳でそれから2年間初期研修して、最短で卒後7年目で脳外科専門医の受験資格が得られます。うちの医局ではほぼ同時に血管内治療専門医も受験することが最近多いです。私は血管内治療の専門医資格は持っておりませんので、一人前がどの程度かはその領域についてはお答えできませんが、周りの脳外科医を見ていると卒後15年くらいで、大体一通りのことはできている印象です。ですので、まつもとさんがご希望されている血栓回収は40代中盤で十分できるように思います。年齢がネックになるとすれば、脳神経外科の教授などのポストを狙う場合は、50代前半までに実績を積む必要があるため、他の人よりも、実績を積むための年数が少なくなるので、少し不利かもしれません。再受験でも、臨床能力は全く問題ないと思います。環境にもよりますが、
Girimaroさん
ご返信が遅れてしまい、大変申し訳ございません。
キャリアパスについて、詳細に教えて頂き、ありがとうございます。
メッセージの内容を拝読し、もう一点お聞きしたい点がございます。
40代中盤(卒後15年ほど)で一通りのことができたのち、そこから医局を辞めて市中病院の部長ポストを得ることは可能なのでしょうか。部長職に年齢制限がないかという点が気になります。
お答え頂ければ幸いです。何卒宜しくお願い致します。
まつもとさん
ご連絡ありがとうございます。部長のポストは主任部長という意味でしょうか?ある程度経験があると、肩書きでは部長になります。ただ、主任部長(部門長)の場合、多くは大学病院の人事で決まることが多いので、業績や手術経験、あと人柄(噂も含めて)や仕事への姿勢の評価た高いなどがないと、医局を辞めて、すぐに主任部長は地域にもよりますがなかなか難しいかもしれません。40代中盤だと、自分の大学の関連施設だと、少し田舎の方で脳外科3-4人の施設であれば、医局人事で主任部長になるチャンスがあるかもしれません。年齢制限については、国公立の場合は大体65歳が定年だったと思います。医療法人などの私立の場合は継続して勤務することはできると思いますが、60過ぎても手術している人は少数かもしれません(モチベーションの問題もありますし、自分がやることで下が育たないので身をひくなど)。よくあるパターンとしては、大学院を卒業して学位を取得し、医局を辞めて医療法人に、つてなどで就職するケースもあると思います。主任部長は難しいかもしれませんが、脳外科医がたくさんいる私立の医療法人などは働きやすいと思います。いずれにしても、手術経験はもちろんですが、論文や学会発表などの経験は積んでおく方が就職には有利です。血管内治療専門医以外にも脳卒中専門医など資格もできるだけたくさん取っておいた方が良いと思います。あと今後は高齢者が増えるので、リハビリ専門医があれば就職するときに便利だと思います。頑張ってください。