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キャリア形成は椅子取りゲーム?

以前、このブログで医局辞めます的な投稿をしたが、とうとう辞めた。現在新天地で勤務開始している。大学病院にしろ、公的・民間病院にしろ、その組織内でのポスト、キャリアは能力もあるが、結局組織の中での立ち位置ということになってくるなと思った。今のところ、医局を辞めたことは後悔していないし、悪い結果にはなっていないが、この経験を通じて感じたキャリア形成について感じたことを書いてみた。

現在勤務中の病院は民間病院である。民間であるから、売上というのも大事な要素になってくる。従って客(患者)が呼べるかどうかは、その組織内での立ち位置に関わってくる。まず、第一に知識があって、外科医の場合は手術経験や技術が求められる。また資格も当然あったほうが、患者さんや紹介元の医師からの期待も当然大きくなる。医者の評価は、点数をつけて順番に並べれるようなものではない。どちらかというと心技体といった武道のようなものに例えられるように思う。

心というのは、つまり患者への対応である。丁寧な説明や、患者の立場を理解した発言・行動、他職種と協調性があるかどうかである。人とのコミュニケーションというか、配慮ができないと、上司としては安心して仕事を任せられないし、トラブルの元になる。医師として、患者へのIC(説明)は大事な仕事のうちの一つである。生き死にに関わることであるから、その所作や言葉遣いは大切である。適切な振る舞いで、その人となりや経験が滲み出てくるし、言葉の重みが増してくる。それによって、患者は信頼し、納得したりもする。自信なさげな言動は、患者を不安にさせる。自信がありすぎても、胡散臭い感じになったりするので、身の丈に合った、その立場にふさわしい振る舞いが求められる。必要に応じて、”上司に相談します”、”わからないので、調べてみます”など親身な対応が取れるかどうかは非常に大切である。また、他職種の医療従事者も、その職種についての経験は、尊重されるべきである。指示系統として、最終的に医師が判断・決定し責任を負うべきであるが、人の意見に耳を傾ける・敬意を持って接することはチームとして機能する、信頼関係を形成するのに重要である。

技(知識)については、引き出しの多さに例えられだろう。ある疾患や病態について、いろいろな状況を想定した上で、詰将棋のように最善の手を考えれるかどうかで、その意志の技量・知識が評価される。鑑別疾患をたくさん挙げられることは大切だが、その中でも優先順位や可能性の高い・低いを考慮して、まず命に関わる緊急性の高いものから除外していかなければいけない。慢性疾患で、ゆっくり対応できる疾患の診断は後からでもできるし、自分に十分な知識がなければ、適切に専門医に紹介することができれば十分だ。外科に関しては、手術中に起こりうるあらゆる状況を想定して動くことが重要である。一番大切なのは、出血のコントロールである。手術前に、十分MRI、CTを使って血管の走行を把握しても、ナビゲーションシステムを用いても、想定外の血管損傷や、その血管を切らないと目的の場所に到達しない場面に遭遇する。切って良いかどうかの判断は、結局知識と経験に基づく。また、その血管を犠牲にすることに対する患者の利益と損失を天秤にかけなければならない。無理をして、合併症を出すよりも、不十分だが安全な範囲で手術を終わらせることも重要な資質である。それでも、判断できない難しい場面では、その人の度胸も関わってくるが、それがいい結果になるかどうかわからないこともしばしば遭遇する。その時は患者さんとの信頼関係があるかどうかが大切だ。”あの先生が手術してこうなったら仕方ない”と心の底から思ってもらえる、肩書き、姿勢、対応が求められる。患者がたらればを考えなければならない状況は避けるべきである。

体は体を動かす能力ということになり、ここでは手技ということになると思う。医療はスポーツではないので、アクロバティックで再現性のない技術は求められていない。どの医者でも同じ結果になるように、均一なやり方でやるのが最も望ましい。しかしながら、手術や採血、動脈ライン確保、中心静脈確保、気管内挿管は、難しい症例もたくさん出てくるので、エコーや気管支鏡などの補助的な器具を使うという選択肢も最大限に利用すべきである。それでも、やはり向き不向きがあって手先な器用な人や空間把握能力のある・ない人はやはり存在する。自分のイメージでは、ゲームセンター(UFOキャッチャー、格闘対戦ゲーム、シューティングゲーム)の得意な人とそうでない人のような感覚である。または、魚を捌くような感覚が近いように思う。ここの部分はある程度才能というものが必要になるかもしれない。

ここまでは医師の資質(心技体)というものについて考察してみたが、最終的にその組織で評価、ポストを獲得できるかは、また違う要素が絡んでくると思う。それは、どれだけその組織に属してきたか(貢献してきたか)ということや、その組織の重要人物に気に入られるかだ。心技体が揃っていても、然るべきポストが与えられているとは限らない。たとえ能力があっても、適切なタイミングでその組織に”いる”ということは、大学病院、公的病院、民間病院に関わらず大切である。この辺の裏事情は働いてみないとわからないことも多いので時の運ということにもなってくる。また、この部分で政治的能力を最大限に発揮して、能力以上のポストに収まっている人もたくさんみてきた。同じ釜の飯を食う、猿山で言うところの毛繕い的な挨拶を欠かさない、ひたすら椅子取りゲームに付き合うなどの能力も要求されるように思う。基本的に、日本の法律ではやばいやつがいてもよほどの理由がない限り解雇できない。膠着した組織は新陳代謝ができずに生き残れないので、やばいやつを抱えている組織はいずれ没落していくだろう。”悪貨は良貨を駆逐する”である。今まで病院は比較的安定した経営ができていたと思うが、これからは税収も減り、病院の統廃合も増えてくるだろうから、自分の価値を高めることは今まで以上に求められてくるだろう。同じ職場で残こり続けることで、政治力を高めることもできるだろうが、その判断は難しい。キャリア形成は壮大な椅子取りゲームのようでもある。

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Girimaro
40代脳外科専門医、救急科専門医、アメリカ留学経験あり 日々考えていることを記録します https://blog.with2.net/link/?id=2073035

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POSTED COMMENT

  1. ゆーやん より:

    Girimaro様

    シビアな内容で、考えさせられました。
    病院の統廃合もそうですが、医者や看護師さんたちがあっての病院なので、受診される側は、病院選びも慎重になると思います。

    • Girimaro より:

      ゆーやんさん
      コメントありがとうございます。なんだか生々しい内容になってしまいました。すいません。あくまでも一個人の意見ですので、聞き流して頂ければ幸いです。

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