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自己承認欲求との付き合い方

医者にはいろいろなタイプの人間がいる。自分の時代は医学科の定員は100人(現在は120人)だった。大体女子は学年にもよるが、大体全体の30%くらいの比率だった。医学科だからと言って、ガリ勉な人ばかりでなく、酒を飲んでなんかやらかす人や、留年しまくっている廃人系の人も少ないが存在する。共通して言えることは、大学受験という関門を突破しているということだ。

大学受験を突破するにはもちろん学力もいるし、努力も必要だが、一番大切なのは動機付けだと自分は考えている。”なぜ医者になりたいのか?”、おそらく面接では必ず聞かれるであろう質問があるが、自分や家族の病気に直面したこと、人の体や心に興味があること、社会的な地位(ブランド)、安定した雇用と収入など動機は様々だと思う。最近の医学科の入試には面接があるが、ここではバレバレのヤバいやつを落とす意味合いが強く、この基本的な問いに対する答えそのものよりも、TPOを考慮した適切なやりとりができるかの方が大切である。ちなみに、面接官が特別高評価を複数人がしても、逆転で受かるというのを聞いたことがある。高評価については面接官の主観もあると思うので対策は困難だと思うが。

話が脱線したが、医学科に入学してくる人のほとんどは天才タイプや勉強が大好きな人を除いて、頑張って勉強して入学してくる。勉強に対する動機付けとしては、やはり自己承認欲求は大きな要因になってくると思われる。自分の経験を鑑みると、思春期の頃は自分が何者なのか、人とは違って特別な存在でありたいなどの思いに駆られて、焦燥感を感じ、不安になっていた。彼女に振られたりすると、自分の価値を高めたい、確認したいと思い、その思いを昇華するため勉強していた。成長する上で、自己承認欲求はとても重要だと思う。

大学に入ると、一旦この自己承認欲求は行き場をなくし、迷走することが多い。今までは、受験勉強や大学のブランドなどが他者との比較になってくるが、大学に入学すると、勉強ができることは他者からの評価に反映されない。試験前には大学の勉強ができるやつは便利だがそれまでだ。それよりも、いわゆる”リア充”タイプの方が、尊敬されていたように思う。部活にのめり込む、ボランティアを頑張る、バイトをして旅行するなど、自分の時間を有意義に使っている。よくありがちだが今まで学校や模試の成績で、自分の価値を確認してきたタイプの人はここで行き詰まる。価値観は多様で、個人の評価もまた多様である。すると、自分がよければそれで良いという状態になり、他者からの評価はあまり意味をなさなくなってくる。つまり、自己承認は自分の幸福にあまり関係がなくなってくる。大概の人はこれに気づいて、あまり人からの評価(自己承認欲求)を気にしなくなるが、自己承認欲求が満たされていないと、SNSなどで”いいね”やフォロー数を競う様になるのではないかと思う。

自分が本当に何を必要としているのか、何をしている状態が幸せなのかがはっきりしていないと、常に人と自分を比較することでしか自分の価値を感じることができない。自分の幸福感が他者からの評価に規定されていると、人に振り回されることになり、結果、人からも魅力的に見えないのではないかと思う。東京大学物語の村上直樹みたいになってしまう。他人と常に自分を比較するのは見栄で、理想の自分と比較するのはプライドではないかと思う。サッカー日本代表監督だったイビチャオシムの語録で、”走って、走って、走る”という言葉がある。レーニンの”勉強して、勉強して、勉強しろ”に由来しているが、つまり勉強したら何か得するのではなく、行為そのものを大切にしろという意味だと自分は解釈している。行為そのものが尊いのであり、二時的な利益を期待するなという意味だ。ある意味、”祈り”に近いのではないかと思う。自分が辛い状態になった時に、なんで自分だけがこんな目にあうのか?と負のループにハマった時は、大学受験の時に使っていた英文標準問題精講に出てきた群れからはぐれて死ぬ渡鳥のフレーズをいつも思い出す。海上を飛ぶ渡鳥が飛びつかれて、海に落ちて死んでしまうのだが、渡鳥は自分がかわいそうだとは思わない。ただ一生懸命飛び続けて、飛べなくなっただけだ。という非常に乾いた文章だ。徹底的に自分を突き放して、粗末に扱うことで見えてくることがあるのではないかと思う。

国家試験に合格して、医者になるとさらに価値観の多様性は増していく。手術が好きな人、研究が好きな人、患者さんとの関わりを大切にする人、お金儲け、学会や病院、大学でのポジションなど様々だ。どの方向に労力を振り分けるかは人それぞれで、正解はない。自分が幸せかどうかは自分で決めれば良いのである。自分はどちらかというと若い人の方が、現状に即した進んだ考えをしていると認識している。今更、こんなことを書いてもしょうがないかもしれないと思ったが、考えを整理してみる意味で書いてみた。

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Girimaro
40代脳外科専門医、救急科専門医、アメリカ留学経験あり 日々考えていることを記録します https://blog.with2.net/link/?id=2073035

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