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医局人事の今昔②

 長々と①では医局の医療での役割を説明してきたが、大学の医局運営をしているのは、教授である。教授は病院への医師派遣や大学病院での研修、研究をマネージすることで、その存在感を発揮するのである。以前であれば、その影響力の強さから誰も逆らわないが、最近風向きが変わっている。平成 25 年4月1日に改正労働契約法が施行されたことが転換点となったと自分は考えている。

改正労働契約法の成立とその内容

  1. 5年を超えて更新された有期契約労働者の「無期労働契約への転換申込権」の新設
    (18条)
  2. 「雇止め法理」の法定化(19条)
  3. 期間の定めがあることによる「不合理な労働条件」の禁止(20条)

福岡県弁護士会北九州部会より引用(https://www.kitakyuben.jp/index.php?id=169)

 今までであれば、教授選が終わり、新しい教授が着任すると、昔の医局員は刷新され新陳代謝が図られる。しかし、自分の大学では最近、教授よりも年上の准教授、講師がそのまま残っているのを目にすることが多い。次のポストを探すまでの猶予のため残ったりすることもあるが、ある意味開き直って居座り続けることを目的にしているようなスタッフもいるように感じる。大学病院は医者の人数が多いので、それだけ自分の興味のない仕事を他人にふることができる。手術がしたい人は手術に、研究が好きな人は研究に専念できるのでスタッフになればある意味安泰である。ただ、市中の病院に出ると、雑用や急患対応、呼び出しなどがありそれを嫌がるスタッフは居座ろうとする。昔であれば、教授の力が強かったため、人事で飛ばされるなんてことはしょっちゅうあったが、最近は改正労働契約法の影響で、大学で長く仕事をしていた’あく’の強い医者を人事異動で辞めさせたり、「不合理な労働条件」に変えて辞めさせることができなくなったように思う。

 医療業界の人材、特に医者のキャリアではもともと終身雇用を前提としていない。前述のように、色々な病院を回ることで経験を豊かにさせていく側面がある。また、医師免許を持っていれば、よほどの変人でない限り就職することはできる。医者は就職に困ることはないので、改正労働契約法はむしろ、人事の流動性を妨げる負の要素が強調されているように思う。大学での雇用形態として最近はテニュアトラック制が浸透しつつあるが、この制度は医者にはあまり向かない気がする。やる気のある若手には良い制度であると思うが、テニュアトラックとして終身雇用が獲得したヤバい人材を解雇することができないのである。テニュアポストを獲得した後に、給料は業績によって更新されていくため、通常はこのシステムでヤバい人材は淘汰されるが、大学病院勤務の医者の場合は、副業ができるため問題ない。特に歳を取ったスタッフは楽な外来診療や寝当直が医局から割当てられることが多いので、大学からの評価と給与が下がってもポジションを失わないのででかい顔ができるのである。

テニュアトラック制とは?

  1. 博士号取得後10年以内の若手研究者を対象とすること
  2. 一定の任期(5年)を付して雇用すること
  3. 公募を実施し、公正・透明な選考方法を採っていること
  4. 研究主宰者(Principal Investigator:PI)として、自立して研究活動に専念できる環境が整備されていること
  5. 任期終了後のテニュアポスト(安定的な職)が用意されていること

文部科学省ホームページより引用(https://www.jst.go.jp/tenure/about.html)

 大学病院での人事の流動性が滞ると、若い芽をつむことになったり、大学病院で特殊な技能の経験を積んだ医師を主要施設に派遣することができなくなる。個人の権利は勿論重要であるが、医者の世界では考えさせられることもあることを知ってもらいたい。とにかくスーパーで強力で財前五郎のようなスター性(良い面だけを発揮して欲しいが)のある教授がたくさん出てくればいいなと自分は思っている。

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Girimaro
40代脳外科専門医、救急科専門医、アメリカ留学経験あり 日々考えていることを記録します https://blog.with2.net/link/?id=2073035

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