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一般向け

ざっくり脳腫瘍について

ざっくり脳腫瘍について語りたいと思う。わかりやすさ優先で説明しようと思うので、一部曖昧な表現になるところはご容赦ください。間違っているところがあれば教えてください。

2017年の脳腫瘍全国集計調査によると原発性脳腫瘍は2005-2008年の4年間で16,722人、転移性脳腫瘍は3,200人診断されていた。原発性脳腫瘍のうち、6,111人は悪性、9,814人は良性腫瘍と診断されている。脳腫瘍の種類は、NCD脳神経外科手術全国統計(2017年)によると、およそ髄膜腫25%、グリオーマ20%、転移性脳腫瘍15%、下垂体腺腫13%、悪性リンパ腫5%、神経鞘腫7%である。このうち、悪性腫瘍はグリオーマ、転移性脳腫瘍、悪性リンパ腫で、良性腫瘍は髄膜腫、下垂体腺腫、神経鞘腫である。ちなみに転移性脳腫瘍の原発巣で多いのは肺がんでおよそ半分、次に多いのが乳がんである。肺がんが多いのは、がん細胞は血行性転移するが、全身の血液は心臓に戻り肺に血液を送り酸素化するので、がん細胞は肺でトラップされ、その後脳に血液が送られるためだ。

悪性と良性の違いは、悪性は増大する傾向が強く、正常な脳を浸潤(破壊)しながら大きくなる。良性腫瘍は大きくなるスピードはゆっくりで正常な脳を圧迫しながら大きくなる。悪性腫瘍は未分化といって、本来なるべき姿(神経細胞、グリア細胞、神経鞘、髄膜、下垂体、リンパ球など)に発達しない中途半端な状態で増殖したものだといえる。良性腫瘍はこれがかなり正常な状態に近いが、やはり中途半端なところがあり増殖してしまう。良性腫瘍は正常な構造に近いので一部の下垂体腫瘍などではホルモンを産生したりする。もちろんこのホルモンも出過ぎの状態なので体には有害である。本来人間の体は免疫などのチェック機構で、この出来損ないの細胞は処分され排斥されるが、加齢などによるチェック機構の機能低下で出来損ないの細胞が残ってしまい増殖することで腫瘍が発生する。または、遺伝子にもともと異常があったり、遺伝子に傷がついたり、変異することで、腫瘍細胞の増殖を促す物質が産生されたり、腫瘍細胞を抑制する遺伝子がダメになったりして腫瘍が発生するパターンもある。

脳腫瘍はどうやって見つかるかと言うと、何らかの症状が出現して病院を受診するパターンが多いと思う。腫瘍が大きくなることで正常な脳が圧迫され、頭痛、めまい、吐き気、麻痺や痺れが出現したり、脳神経を圧迫するとものが二重に見える、耳が聞こえにくくなる、眼球の動きが制限されたりする。あとは頭を打って、頭部CT、MRIを撮影したり、脳ドックでたまたま見つかったりするパターンがある。

脳腫瘍が見つかると治療をするか様子をみるかに分かれる。良性腫瘍の場合、基本的にゆっくり大きくなり正常組織への圧迫などで何らかの症状が出現しない場合は様子観察することも多い。良性腫瘍か悪性腫瘍か判断するのは基本的に造影剤を使ったCT、MRIで造影効果(腫瘍が白く染まって見える)を認めるかどうかで判断する。悪性腫瘍は増殖能が高いので、周囲から血管を引っ張ってきて血流が増加していることが多い。または糖代謝が亢進しているのでFDG-PETという糖代謝が亢進している部位が強調される検査を行うとわかる。また悪性腫瘍は画像状、境界が不明瞭で周りの組織に浸潤する力があるので周りの正常組織が腫れて浮腫性変化(腫瘍の周りが画像検査で白っぽく見える)をきたすことが多い。悪性腫瘍は①血流が豊富、②糖代謝が亢進、③周りの組織に浸潤する、といった特徴があり、これは脳の腫瘍に限らず他の臓器にもいえる。

悪性の場合は基本全例(手の施しようがないほど進行している場合は、緩和ケアと言ってオピオイドなどの麻薬や鎮痛薬等を使った対症療法を行う)が治療対象になり、良性の場合は正常脳や神経への圧迫があれば治療対象となる。良性腫瘍は手術が主な治療で、全摘出できれば基本治るか長期に再発しない。摘出できない場合は様子をみるか、放射線治療を行う。悪性腫瘍の場合は、手術を行い、肉眼では見えない取りきれなかった腫瘍細胞を放射線や化学療法で叩く。

成人の脳の悪性脳腫瘍で多いのは、膠芽腫、転移性脳腫瘍、悪性リンパ腫がある。膠芽腫はできれば手術+テモゾロマイドと放射線治療の併用、転移性脳腫瘍はできれば手術+放射線治療、悪性リンパ腫の場合は化学療法、放射線療法が奏功するので生検術と言って小さい穴から針のような細い棒で組織を採取するか、脳表に近い場合は小さい開頭術を行なって、腫瘍の一部を切り取り病理検査で診断する。ちなみに悪性リンパ腫は生検術の前にステロイドを投与すると腫瘍が消えて診断できなくなることがあるので注意が必要だ。膠芽腫は基本的に治らないので大体2年程度の予後しか見込めない。転移性脳腫瘍は取りきれた場合は比較的長くコントロールできることもあるが、原発巣の状態が悪いと予後が悪い。頭の手術は大体3ヶ月の余命が期待できる場合に行う。悪性リンパ腫も上述のように化学療法・放射線療法が効くので、長期生存しているケースもあり、一旦は消えるが、再発することが多く、再発すると抗がん剤の効きが悪くなるので助からないことも多い。

がんになるかどうかは元々の遺伝子的ななりやすさの他に環境因子もあると思う。アスベストが悪性中皮腫の原因になったり、喫煙、いくつかの化学物質などもがんを引き起こすことが知られている。またウイルス感染や糖尿病との関連も報告されている。どちらにしても一般的に言われているような健康的な食生活、生活習慣が大切になることは間違いない。

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Girimaro
40代脳外科専門医、救急科専門医、アメリカ留学経験あり 日々考えていることを記録します https://blog.with2.net/link/?id=2073035

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