自分の人格形成に少なからず影響を与えた人物について書きたいと思う。彼には大学入学してまもない頃に、新しくできた友達の高校時代からの友人として出会った。美術を学んでおり、身長は高くイケメンだった。ロン毛で見た目はバイカーだった。当時人気のあったアメリカンのバイク(ヤマハのドラッグスター)を鬼のように改造して乗っていた。改造の仕方も一風変わっており、ガソリンタンクはわざわざ原付の小さいものに変えておりlow and longのフォルムに仕立てていた。友達によると、高校(超進学校)の頃から不良校の生徒を相手に喧嘩していたそうだ。剣道もしていて運動もできるナイスガイだ。
自分が影響を受けたのは、彼の見た目やファッションではなく、その生き方だった。高校の頃から”死にたい”と思っていたそうで、授業中に消しゴムを見つめて、消しゴムのことを考え出すと思考が止まらなくなったりしていたそうだ。何が悩みかはわからなかったが、彼の父親にも相談したりしていたそうだ。言えることは、自分なりの価値観というか感性があってそれを守っているようだった。見た目や行動が派手だったが、彼の言動は、普通はその年頃の若者にありがちな承認欲求からくる行動とは明らかに違っていた。どちらかというと他人の意見は関係なく自己実現を目指すという印象だった。地に足がついているというか、目的が自分の中でしっかりしている感じ。また岡本太郎の著書の素晴らしさを教えてくれたのは彼だ。
当時の自分はあまり自分が本当にやりたいこともわからずに、ただ無為に過ごしていたので、彼のように自分なりの目標に到達しようともがいている様子は羨ましかった。大学に入学してみたものの、形から入っていたところもあり、大学で勉強する意義・目的意識も理解できていなかったように思う。社会生活を過ごしてからだと、大学は色々学べて有意義に過ごせていたかもしれない。その当時は自分の中でも、まだやりたいことや自分が何を求めているのか定まっていなかった。
彼は地方の総合大学美術学部を卒業し、結局芸術大学の院に進学した。その後奨学金を得て、現在はベルリンを活動の拠点に彫刻家として活躍している。おそらく彼は自分のことを覚えていないかもしれないが、当時まだ他人からの評価でしか自分の価値を測ることしか知らなかった自分にはとても印象的だった。独自の価値観と生き方を貫いていた。カリスマ性があったと思う。
当時は彼に対して憧れのような感情を持っていたが、今はない。自分にしかできない生き方がある程度できているのではないかという感覚ができてきたからだ。色々な経験をして自分の限界を知り、できる範囲で努力してきたからかもしれない。達成感と諦め、地に足がついてきたのではないかと思っている。憧れを持っているだけでは、その人と同じステージには立てない。自分を磨く努力はこれからも続く。