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その他

手術の上手い下手について

今回は自分の思う手術の上手い、下手について述べたいと思う。手術に関しては脳外科のものを対象とする。結論から言うと、”いかに本番をシミュレートできるか”だと思う。ご存じのように、人の体は同じ構造をしているが、脳神経や血管の走行は人によって異なる。実際入った時にいつもと同じ場所とちょっと違うところにあるのはよくあることだ。また、腫瘍の場合は硬くて吸引管で吸えない場合もあり、ハサミで切らないと除去できないような硬い腫瘍にもしばしば遭遇する。腫瘍からの出血コントロールには栄養血管(腫瘍に入るメインの動脈)の結紮、焼灼凝固が大切だが、この血管が術野の浅い場所にあるときは容易に確保できるが、腫瘍の裏側などに存在していると見つけるのに難渋し、予想外に出血させてしまうこともある。

上記のように重要な血管、脳神経の走行、目印になる脳回、腫瘍と他の構造物との位置関係や硬さなどの性状は前もって予想しておくことが大切になる。主にMRIや血管造影を行うことでこの情報を前もって認識し、準備することが手術の成功には必須になる。最近では3Dプリンターを使って患者自身の脳や頭蓋骨の模型を作って、事前にどんなアプローチが良いか、どんな道具が必要かを検討することもできる。ただ、ほとんどの術者はこのシミュレーションを頭の中で行う。今までの経験を駆使して想像して手術に臨む。よく若い研修医に説明するときに、手術は旅行の準備と似ているよと説明している。事前にどのようなルートと交通手段を使って、何時くらいについて、どこに観光に言ってどのホテルに泊まるか考えておかないといけない。準備が不十分だと、交通機関が急に使えなくなった時にどうやって目的地に辿り着けるか急な対応が求められる。また行きたかった観光地が予想されているほどの感動が得られるかわからないし、ホテルがホームページ通りかどうかも行ってみないとわからない。感動的な旅行にするには、インターネット上の間違った情報を回避して、よりリアルな情報を見つける必要がある。旅行の場合は、行き当たりばったりで、何もできずに帰ってきても良いかもしれないが、手術の場合はそうはいかない。手術にはよりシビアなシミュレーションが要求される。ちょっと極端だが、アポロ計画のように、失敗の許されない初めての月面着陸を成功させるようなものだ。

難しい手術になればなるほど上記のシミュレーション能力が要求される。一般の人の場合は手術のうまさは手先の器用さと思われるかもしれないが、手先の器用さは最優先ではないと思う。むしろ丁寧さのほうが重要かと自分は思っている。手術時間に最も影響を与えるのは、手順を間違えてやり直すことだと思う。例えば、何かに糸をかけようとしていて、焦って途中で糸が針から外れて付け直す、ドアの鍵を開ける作業で何度も鍵を探し直すなどの操作は最も時間を消費する。考えてみてほしい、家から出かける時に、何度も同じ作業を繰り返すと最低倍時間がかかってしまう。手術も同じで、操作そのものの速さよりも無駄な同じ操作を繰り返さないことで驚くほど時間は短縮される。手術が下手な人は、焦って手の動きを早くしようとするあまり、間違った操作が増えていることが多い。本当に手術が上手い人は、ゆっくり何事もなかったように行なっていることが多い。余談だが、下手な手術の人がトラブルになっているところは勉強になることが多い。どうやってリカバーするか見ることができるからだ。本当は良くないが、トラブルシューティングはある意味手術の勉強で最も重要だが、上手い人の手術はトラブルが少ないのでそういう点では勉強にならない。

案外手術の上手い人は、旅行の企画や飲み会の幹事も上手にこなすのではないかと思う。曲芸のような技術でないと成功しない手術は手術とは言えない。

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Girimaro
40代脳外科専門医、救急科専門医、アメリカ留学経験あり 日々考えていることを記録します https://blog.with2.net/link/?id=2073035

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