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終末期医療について思うことー祖母の死に直面してー

つい先日(2022/3/15現在)、祖母が亡くなった。97歳だった。大正生まれで太平洋戦争も経験している。祖父母の中では一番可愛がってもらった。死因は老衰だった。大往生だと思う。医療に携わる人間として、普段から死に関わることは多いが、やはり頭では分かっていても身内だと違う感情も湧いてくる。そのことについて述べたいと思う。

少し詳しく説明すると、祖母は高血圧と慢性心不全、間質性肺炎とかなり緩徐に進行している癌を患っていた。膝も悪く、長距離は歩けないが、おば(次女で自分は長女の息子)の家で同居しており、認知症はあったが会話も成立するし、自分のことも死ぬ直前まで認識できていた。デイサービスに通い、刺身が好きだった。年々体力は落ちていたが、毎日楽しそうに過ごしていた。おばによると年明けの一月中旬から急に調子が悪くなり、突然夜中に”痛い、痛い”と叫び続け、”病院に連れて行け、連れいていかないのは薄情だ”と喚き出したとのことだった。病院に連れて行ったが、採血などの検査ではそれほど悪いところはなく、原因はわからなかったが横になって点滴をしていると大人しくなった。胆石で入院したことがあるが、その時はビリルビンが上昇するし、痛みの性状が違った。医者からの説明では心不全の悪化、あるいは認知症が急に悪くなったとのことだった。おじさんによると、調子が悪くなる数日前に尻餅をついて転倒したとのことだった。おじさんの父親も尻餅をついて腰椎圧迫骨折になったことがあり、その時の症状と似ており圧迫骨折で調子が悪くなったのではないかと言っていた。近くの整形外科でレントゲンを撮影されて異常ないと尻餅をついた直後は言われていたが、MRIを撮影していないので新鮮骨折は診断できなので、採血やCTで異常がなければ圧迫骨折の可能性は高いと自分もそう考えていた。

割と大きいかかりつけの総合病院に入院して、いろいろ検査もしてもらったが原因はわからない。また、1時間くらい時間をかけても嘔吐してしまう状態になって食事も絶食になった。調子が良い時は受け答えもできるが、悪くなると反応せずに眠ったような状態がしばらく続いた。そんな状態が1ヶ月くらい続いた後に、急に心拍数が20/minまで下がり、病院から”もう持たないかもしれないので家族に集まるよう”連絡がきた。コロナの影響で面会できなかったので、大部屋から個室に移り、調子が悪くなってから初めて会うことができた。実際会うと意外と会話はできて、自分のことも覚えていた。母(長女)と面会したが、急変した割りには意識がある程度戻っていたので少し安心したと同時に、もしかして良くなるかもしれないと感じた。認知症もあり、点滴を抜かないように両手にはミトンがしてあり、入れ歯が外されていて、口からは老人特有の匂いがあり、口の中は汚かった。医療従事者として、ある程度は仕方がないと思いつつ、身内としてはかわいそうに思えた。別れ際に”勉強せえよ”と言っていた。祖母にとってはいつまで経っても孫は子供のままのようだ。

その後小康状態が続き、バイタルサインも安定していたため、2月に入って慢性期病床のある病院へ転院することになった。相変わらずコロナで蔓延防止のため面会ができなかった。自分が最後にあった時の祖母は意外と元気で、母親も自分もまだなんとかなるのではないかと心のどこかで感じていた。母親はWebで面会した時に、”何が食べたい?”と聞くと”刺身”と答えていたそうだ。結局総合病院で入院して以降、一度も食事が再開されていない状態だった。総合病院では一時心拍数が下がり急変状態になったこと、意識の状態にムラがあり、寝ていたり起きたりを繰り返しており食事を始めると誤嚥の可能性があった。また、祖母は好き嫌いがあり、好みのものでないと食べないことも考えられた。自分も医療従事者の経験から、病院としては、誤嚥のリスクもあるだろうし、食事を再開することは躊躇われるだろうと容易に予想ができた。長期に絶食が続くと、消化管粘膜が萎縮して口からの食事を始めても下痢をしたりして吸収しないことも考えられる。ただ、身内としては、”もしかしたら、食事が口から摂れればもう少し悪いなりにも生きられるかもしれない”という思いがあったので、面倒を見ていたおば夫婦に相談した。

自分達家族は口からご飯が食べられない状況は寿命だと思われるので、経管栄養は望まなかった。母と自分はできればご飯が食べられるかどうか試してほしいと思った。そこで、同居していたおば夫婦と自分とで担当医に相談することになった。担当医の説明ではやはり、心不全は一旦落ち着いているが、長期の絶食で経口摂取は誤嚥の可能性も高く、腸管の粘膜も萎縮しているであろうとのことで口から食べることは断念せざるをえなかった。自分が担当医であってもおそらく同様の説明をしただろうと思う。身内としては、口から食べて少しでも長生きしてほしいという思いもあったが、とても自宅に連れて帰れるような状況ではなく、長く同居していたおば夫婦も積極的な治療は苦しい時間が長くなるだけだと考えており、しょうがないと思うより他なかった。自分が面倒をみることができないので当然だと思った。そこからは、毎日ご飯も食べずに点滴だけで過ごしておりいつかは死んでしまうし、もう97歳だと思う一方でなんだか落ち着かない日々を過ごしていた。最終的には最初に急変してから丸2ヶ月で祖母は旅立っていった。

昔見たベンジャミンバトン数奇な人生という映画を思い出した。生まれた時が年寄りで、死ぬ時に赤ちゃんになるというものだ。主人公を演じるブラッドピットが最終的に赤ちゃんになって恋人の腕の中で亡くなるというものだった。祖母も最後は認知症でよくわからない状態になっていた。ベッドの上でほぼ寝たきりで、時々両手を動かしているがぱっと見は辛そうな表情はしておらず、自分の状況を理解できているようには思えなかった。それはまるで、ベンジャミンバトンのように赤ん坊に戻っていったようだった。絶食も長かったが、最低限の点滴は受けており最後は枯れるように亡くなった。大往生だと思う。自分の田舎は真言宗が多く、祖母もよく般若心経を仏前で唱えていた。密教で今は禁止されているが、即身仏と言われる生きたままミイラになるというある意味究極の修行があるが、認知症で何もわからなくなったが、無垢で食事を断ち自然に枯れるようになくなっていった過程はまるで祖母が即身仏になったように自分は感じた。人はいつかは死んでしまう。また認知症は介護する人にとっては大変な問題になりうるが、見方によってはあまり苦しまないでいいように生まれつきセットされているのではないかとも思えた。つい先日、菩提寺からお坊さんに来ていただき、無事に葬儀を終えた。祖母に関わってくれた親族、医療従事者、住職、祖母自身にも感謝したいと思った。合掌。

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Girimaro
40代脳外科専門医、救急科専門医、アメリカ留学経験あり 日々考えていることを記録します https://blog.with2.net/link/?id=2073035

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POSTED COMMENT

  1. きよか より:

    Girimaroさん

    お祖母様、亡くなられたのですね、ご愁傷様です。
    終末期医療について少し触れられていたので。。
    たしかにエンドステージを迎えられた患者さまには、経口から難しい場合に、せめて口腔内のケアだけは苦痛ないように、と一生懸命させていただいておりました。わたしが働いていた病院では自分だったら、と考えたら、身体の清潔は勿論ですが、口腔ケアに注力を!と言うことで歯科医や衛生士に習い、今はケアグッズも充実しているので気持ち良いくらいに口腔内をツルピカに仕上げていました^ ^
    それに口腔環境が身体内に及ぼす影響を学び、一段と力を入れていた看護業務です。
    患者様のご家族が、食べれなくなった患者さまでも口腔内が綺麗だと面会をされたときにとてもよく面倒見てくださり、とお礼をスタッフによく言ってくださいました。
    わたしたちの業務はやはり、患者さまの苦痛を最小限にとどめるべく、患者さまに寄り添った看護が重要なんだなあ、といつもありがたい言葉をいただいた際に再認識しておりました。

    今は結婚して退職して、義父のクリニックを手伝っております。ベビー待ちです^ ^

    あ、それと、真言密教では、即身成仏はこの身この体、今が仏!生まれながらすでに仏である、と言う考え方。顕教にはない考え方のようです。
    即身仏と勘違いされているかと存じます^ ^

    • Girimaro より:

      いつもコメントありがとうございます。返信遅くなってすいません。
      きよかさんの施設では口腔ケアにとても力を入れてらっしゃるようですね。家族としては、口の中まで綺麗にしてくれるとやはり嬉しいと思います。病院によって事情はあると思うので、なんとも言えませんが元気な状態を知っていると、身内が病院で”病人”になっているとなんとも言えない気持ちになります。
      真言宗のこともお詳しいのですね。間違った言葉を使っているようですいません。訂正しておきます。
      また、感想等あれば教えてください。子育て大変だと思いますが、無理しないように頑張ってください。

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