ざっくり脳出血について（脳外科的視点）

自分は脳外科医であるが、今までこのブログでほとんど病気についての記事を書いてこなかったことに気づいた。脳出血は脳外科医が治療することになることが多いので、まず脳出血（外傷でない）について簡単に脳外科目線の視点で解説したいと思う。

令和2年の人口動態統計（https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/kakutei20/index.html）によると令和2年では10万人が脳卒中で死亡し、そのうち3万2千人程度が脳出血で亡くなっている。脳出血の死亡者数は、高血圧治療が進んだこともあり低下傾向にあるが、出血量が多いと死にいたるケースもよく目にする。

また命が助かっても半身麻痺や言語障害、意識障害（寝たきり）などの後遺症が残ることも多い。

脳出血の原因としては高血圧性脳出血といって、血圧が高いことで血管の壁が破れて出血するパターンと、血管そのものに異常（脳動脈瘤、脳動静脈奇形）があるパターン、外傷によるもの、脳腫瘍などから出血するパターンと色々ある。いずれの出血の場合も考え方としては壊れた脳は元に戻らないので、止血して出血の広がりを抑える。脳出血による脳の圧迫（呼吸や循環をつかさどる脳幹部）を解除することが治療の目的となる。止血については出血の原因によって違う。高血圧の場合は単純に血管が破れているところをバイポーラーという医療用のピンセットのようなもので、電気で通電して焼灼止血したり、医療用の糊（ベリプラスト、ボルヒールなどの血液由来の製剤）を使って止血する。血管の異常があれば、クリップや医療用コイルで動脈瘤を閉塞させたり、動静脈奇形の場合は摘出する。外傷の場合は痛んだ脳を除去したり、腫瘍の場合も摘出して出血をコントロールする。

脳出血の場合は、手術そのもので神経の機能は回復しない。例えば運ばれてきた時に麻痺や意識障害が出現していると、状態にもよるがほとんどの場合は何らかの後遺症が残ることが多い。神経は切れてしまうと元の神経回路が再構築されることは基本的にない（生き残った脳が代わりの役目を果たすことはある）。これは外科医の腕がどうのこうのといったレベルの話ではない。手術の目的は上にも書いたがあくまでも、止血と脳の除圧である。出血で脳幹部が圧迫されると呼吸停止、心停止して亡くなってしまう。出血が大きく、反対側の脳まで圧迫されるくらい圧迫が高度だと、何もしないと（点滴治療だけだと）半日から数日で死亡してしまう。また、脳の血液循環が悪くなり、頭部CTを撮影すると脳の部分が真っ黒に映りいわゆる”脳死”の状態になってしまう。こうなると、尿崩症といって抗利尿ホルモンが脳から分泌されないようになり、おしっこが大量にでて1-2日で急変する。

脳の圧迫を解除するには開頭血腫除去術を行うが、手術を行う目安としてはJapan coma scalehttps://ja.wikipedia.org/wiki/Japan_Coma_Scaleで二桁以上が判断の基準になることが多い。ちなみに一桁は自発開眼、二桁は呼びかけか痛み刺激で開眼、三桁は開眼しない状態である。要するに手術の”やりどき”は呼び掛ければぎりぎり開眼する場合だ。普通に開眼している場合は脳の圧迫がそれほど高度でないため、自然に吸収されるのを待っても大丈夫ということになる。逆に全然開眼せずに両側瞳孔が瞳孔が散大しており光刺激に反応がないようだと手遅れである。この場合助かっても寝たきりになることはほぼ間違いない。ただ、三桁の状態でも意識の回復が期待できる病態（急性水頭症、脳室内出血、小脳出血）もあるので素人判断はしないようにしてほしい。

天才脳外科医であれば、寝たきりの人が目を覚まし話ができるようになるということはない。脳外科医はあくまでも正常な部分を出血による圧迫から解放し、残った部分をリハビリなどで回復を促すしかないのである。脳出血の原因は、高血圧、飲酒、喫煙などが一般的だ。毎日体重を測る、塩分を控える（塩分が多い食事の後は手足がむくむことが多い）、間食をしない（糖分・炭水化物を控える）ことが大事だと思う。要は生活習慣病が原因になっているので、不摂生をしないということである。不摂生を止めるのは習慣なので、依存からの脱却https://girimaro.com/?p=183を見てほしい。